はじめに

2050年のカーボンニュートラルに向けた対策の1つとして、省エネによる温室効果ガス低減があり、技術面と運用面での取り組みがあります。技術的な側面からは、インバータ使用,高効率モータ使用,ヒートポンプ使用,ガス燃焼式から誘導加熱式への変更など、有効な技術が存在しています。特に、電力消費の約60%を占めると言われているモータのインバータ化やインバータ+高効率モータの推進を実施していく必要があります。

(出展:経済産業省 第3回 グリーンイノベーション戦略推進会議)

①省エネルギー・エネルギー効率の向上 ⇒ インバータの効率向上、高効率モータ使用、LED照明の使用、
②CO2排出原単位の低減(電源の脱炭素化、再生可能エネルギーなど)⇒ 太陽光発電、風力発電設備の導入促進など
③燃料の転換 ⇒ 水素、メタノール、バイオ燃料の利用など
④非電力部門の電化 ⇒ 誘導加熱炉の使用、ヒートポンプ使用など

経済産業省が脱炭素ネットゼロを達成するシナリオは、電力機器を省エネ・高効率化、且つそのエネルギーを再生可能エネルギーで賄う。また、非電力機器に対しては代替燃料への変更や電化を推進し、最後どうしても残った温室効果ガスは植林や地中に埋設し、ネットゼロを達成するものです。
ここでは、インバータに関する省エネ技術を以下に示します。

インバータを使用すると、なぜ省エネになるのか?

商用周波数でモータを運転しているときは、回転速度は一定であり、ファンを動かしたときの風量調節はダンパなどを使用し、大きな損失が発生しています。これに対し、インバータを使用すると任意の回転速度で動作させることが可能となり、ダンパ不要で、且つ少ないエネルギーで同じ風量を得ることができるようになります。風量を1/2にした時の必要エネルギーは、回転速度の3乗に比例して小さくなるため、1/8になり、大きな省エネを達成することができます。(下記、インバータ使用による省エネ事例を参照)

インバータにも損失がある!

インバータ回路にも損失があり、パワー半導体素子や回路の性能改善が継続して行われてきています。

損失を低減させるSi(シリコン)パワー半導体素子

スイッチング損失などの損失低減として、整流ダイオードのSi-SBDやPINダイオード、スイッチング素子のSi-MOSFET や IGBTのパワー半導体素子が現在主流として使用されています。但し、今後 xEV(電動自動車など)を始めとする更なる高耐電圧、高速スイッチング、低損失が要求される製品に対し、Si(シリコン)製素子では物性による限界が存在し、性能向上が難しい状況です。そのため、更に性能向上を図るためには Si 製素子に代わり、次世代半導体として化合物半導体素子が注目され高価格製品への展開が始まっています。

次世代パワー半導体素子

次世代半導体素子は、高耐電圧・高速動作・低損失・高温動作できる特性を有しており、電車、xEV や太陽光発電の電力変換回路などに使用され始め、既存の製品と比較し小型化、省エネ向上、高効率化などにおいて素晴らしい性能を発揮している。現在、SiC (炭化ケイ素)が高耐電圧・高容量に、GaN (窒化ガリウム)が中耐電圧・高速動作・高容量素子として使用され始め、次次世代半導体としてGa2O3 (酸化ガリウム)も非常に期待されている状況です。但し、次世代パワー半導体は、製造面・品質面で多くの課題解決が必要で歩留まりが悪く、性能もフルに発揮できていない状況で非常に高価な素子のため、当面は Si 製素子がやはり主流と予想されています。

インバータ使用による省エネ事例

インバータにも使用する半導体素子や回路構成により、さまざまなタイプが存在します。必要性能と価格面などを検討し、最適なものを選択していく必要があります。インバータエアコンなどインバータを使用するだけで大きな省エネ効果を取得でき、また次世代パワー半導体を搭載したインバータを採用することにより、機器全体の小型化(放熱機構の小型簡略化など)や回生エネルギー量増加による省エネ効果大、メンテナンスフリーの小型モータなど、いろいろなメリットを得ることが可能となります。
下記にファン制御におけるインバータ未使用/使用、新幹線の車両進化とxEVにおけるインバータ回路の半導体差異での省エネ事例を紹介します。