はじめに

今回は省エネルギー技術ではなく、脱炭素 ・電気料金低減・SDGs(目標7,13)の観点から考えてみましょう。脱炭素社会に向け温室効果ガス削減および2050年のカーボンニュートラルに向けて、世界各国がいろいろな取り組み、技術開発を活発に実施しています。日本では、1979年の「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)や1998年の「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)など世界に先駆け取り組んできていますが、大企業・大工場のみが対象と思われがちです。大企業に限らず、すべての企業がこの脱炭素社会への取組に乗り遅れると将来の事業継続が危うくなることも・・。

また、2022年5月に省エネ法が改正され、2023年4月施行となります。名称も「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」に変更されます。1970年代の2回のオイルショックから省エネ法が設けられ化石エネルギー由来のみを対象としてきましたが、いよいよ非化石エネルギーも対象となり抜本的な改正となり、いろいろな観点から検討が必要となります。

ここでは、非化石エネルギーで脱炭素社会実現の1つの方法である太陽光発電の導入(FIT制度が変更となり市場価格も低下したため、投機目的ではなく自家消費を前提とします)に注目し、以下の視点で見ていきます。

(目次)

◉脱炭素に取り組む社会状況は?

◉再生可能エネルギーの太陽光発電の位置づけは?

◉太陽光発電を導入する場合のメリット・デメリットは?  

◉太陽光発電の導入に伴う注意点は?

◉太陽光発電含む再生可能エネルギー導入に対する支援策はあるの?

◉太陽光発電の発電のしくみは?

◉太陽電池にはどのような種類があるの・特徴は?

◉まとめ

◉脱炭素に取り組む社会状況は?

地球温暖化の影響で異常気象による災害や生態系システムの崩壊などが世界中で発生しています。その対応策の動きの1つとして、気候変動枠組条約(COP)が開催され、温室効果ガス削減に向けた議論が毎年行われています。このような状況で各企業が温室効果ガス削減に取り組むことは必須となっています。

  • SDGsの17の目標のうち、特に目標07「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」と目標13「気候変動に具体的な対策を」、また間接的に目標01「貧困をなくそう」、目標02「飢餓をゼロに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」などにも関係しています。
  • ESG投資(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governance)、これら3つの観点を重視する企業に投資が長期的に行われ、逆行する化石燃料を多く使用する企業への投資はどんどん減少していく状況にあります。
  • 企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブがあり(RE100)、世界や日本の大企業を中心に参加が増加しています。このような動きの中、大企業に関係が深いサプライチェーン各企業にも取引継続には脱炭素への取組が要求され始めています。
  • 脱炭素への取組には目標達成のため、多々の支援策が国や地方自治体などから設けられています。また、銀行などからの融資も有利になると考えられます。
  • 防災や燃料の海外依存の観点より、地域の電力レジリエンス強化が求められ、再生可能エネルギー導入などを含めた地域マイクログリッド構築が需要となってきています。

◉再生可能エネルギーの太陽光発電の位置づけは?

2030年度の温室効果ガス削減目標を達成する電源構成として、再生可能エネルギーは 36~38%(3,360~3,530億kWh)程度を目指しています。そのうち、太陽光発電の割合は、約14~16% (1290億kWh~1460億kWh)と非常に大きい電力供給源として位置づけられています。2019年度での太陽光発電量は、690億kWh のため、倍近い太陽光発電量を確保しなければならない状況です。

ここで2020年度時点の平地あたりの再エネ発電量を確認すると、日本は世界最大で限られた国土の中で地形も考慮した場合、適地が減少傾向にあり、簡単に増加させるのは難しそうです。

また、建築物の壁や窓ガラスに設置できるフレキシブルな次世代型太陽電池も開発が日々進んでいますが、2030年には間に合いそうにない状況です。

(出典:資源エネルギー庁)
(出典:総合資源エネルギー調査会)

◉太陽光発電を導入する場合のメリット・デメリットは? 

[メリット]

  • 発電時にCO2排出をしない、クリーンな電源の確保
  • 災害発生時などに対するBCP(事業継続計画)対策および地域への貢献
  • 環境に配慮した企業のブランド力の向上
  • 原油価格高騰などに左右されず、自家発電消費による電気料金の低減

[デメリット]

  • 発電電力量が天候に左右され、不安定
  • 定期メンテナンスのランニングコストや廃棄時の処理費用などの準備が必要

◉太陽光発電の導入に伴う注意点は?

太陽光発電システムの導入に関し、パネル設置など直接的な事項以外に下記のような対応が必要です。

  • 法規制への対応

太陽光発電の発電種類、設置場所、規模などにより、いろいろな法規制が設けられています。 例えば、電気事業法、建築基準法、地方自治体での地滑り等防止法や農地法などに対し、個別対応が必要です。

  • 太陽光発電の点検・保守義務(電気事業法)

「50kW未満の非FITの太陽光発電所」を除き、太陽光発電所のメンテナンスが義務化されています。よって、専門企業や電気主任技術者による定期メンテナンスが必要となり、また民間のガイドライン同等以上と明確な内容は記載されていません。参考には、「事業計画策定ガイドライン」や「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」があります。

  • 太陽光発電の廃棄処理(再エネ特措法:資源エネルギー庁、廃棄物処理法:環境省)

太陽光パネルの適正な廃棄処理に関し、再エネ特措法改正により、発電事業者が中長期的に将来の廃棄費用を確保する義務を定めました(改正前は積立義務の条文無し)。また、廃棄物処理法は、太陽光パネルの解体・撤去に関し、発電事業者から依頼された排出事業者が、適正に廃棄処理を行う義務を定めています。今後、FIT制度導入により増加した大量の太陽光発電システムが寿命を迎え廃棄処理が必要となっていきます。そのため、処理に関する事項がますます厳しくなっていくと考えられ、導入時より考慮しておく必要があります。

  • 長期視点の取組対応

20年以上にわたり太陽光発電システムを使用していくため、発電電力の監視や異常の早期発見・対策などの体制や周囲環境・地域住民への配慮などの長期的な取り組みが必要です。

  • 損害保険や為替による影響懸念

近年、発電設備での銅ケーブル盗難や自然災害の影響を受けることが多くなり、保険費用が高騰或いは保険契約が難しくなってきています。また、太陽電池の出荷量がほとんど海外という状況で、円安ドル高や原油高騰などによる設備導入コストの増加があり、事前検討が重要です。

◉太陽光発電含む再生可能エネルギー導入に対する支援策はあるの?

2030年の目標に向け、2022年度もいろいろな支援策が準備されています。下記に一例を示します。

  • 中小企業経営強化税制(設備投資減税)税額控除・即時償却  (具体的な内容を見るには、→ 国税庁 をクリックして下さい) 
  • 国の再生可能エネルギー事業支援施策  (具体的な内容を見るには、→資源エネルギー庁 をクリックして下さい

◉太陽光発電の発電のしくみは?

ここから、視点を変えて太陽光発電システムを導入する場合、どのような太陽電池があるのか、簡単に説明します。

但し、もう少し詳しい特徴を知りたい方は、こちらを参照ください。       (太陽電池の発電動作

いろいろな種類の太陽電池が開発されていますが、基本的な考えは光のエネルギーを吸収して、電子が励起され動けるようになり、電極へ集めて外部回路に取り出すことで電流が流れます。

このように太陽電池は光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子です。この逆が各家庭で使用されているLED照明で電気エネルギーを光エネルギーに変換している関係にあります。

◉太陽電池にはどのような種類があるの・特徴は?

太陽電池の材料面から見た分類としてシリコン系、化合物系、有機系の3分類があります。                                                         歴史があり、光から電気に変換する変換効率の高さや信頼性から結晶系シリコンが最も多く生産され独占状態です。2020年時点の単結晶シリコン出荷量が全太陽電池の82%、多結晶も含めた結晶系の生産量は96%となっています。単結晶はシリコン結晶作成に手間と電力消費を要するため多結晶に比べ高額となりシェアを一時期落としましたが、徐々に金額差が縮まり変換効率の高さなどから近年単結晶が選択されるようになりました。

太陽電池の種類
(出典: 株式会社資源総合システム)

以下に、各太陽電池の特徴を簡単にまとめています。

変換効率は、シリコン系の単結晶・多接合やⅢ-Ⅴ族などが高い。但し、光の吸収範囲を広げ変換効率を向上させるために、化合物系や有機系においても多接合した太陽電池が開発されつつあり、日進月歩で変換効率が向上しています。 実用化に関しては、化合物系の多元系は太陽光発電として販売されており、有機系は特徴を生かし室内での環境発電などに使用されています。薄膜太陽電池は、耐荷重に課題がある屋根、窓ガラスや建物壁面などにも使用され始めています。

シリコン系 : 歴史があり最も多く使用されている、化合物系や有機系より部分的な影による出力低下が大きい
 長所短所
単結晶 光を電気に変換する変換効率が高い、信頼性が高い、製造コスト低減も図られ競争力を持つ、両面発電など実用化されている高温化で出力低下が大きい(多結晶よりは少ない)、光を吸収しにくいため厚みが必要で重い
多結晶大量生産可能で単結晶より低コスト高温化で出力低下が大きい(0.5%/℃で低下すると言われている)、構造欠陥などの影響で単結晶より変換効率が劣る、単結晶と同理由で重い
アモルファス光の吸収が高いため薄膜化でき非常に軽い、高温化で出力低下が小さい、原料が少量で製造プロセス温度も低いため低コスト変換効率は結晶系より劣る、強い光で光劣化が課題
多接合・単結晶とアモルファスの接合タイプ@パナソニック  :発電効率が高く、高温化でも出力低下しにくい                                 ・アモルファスと微結晶の接合タイプ(可視域の光はアモルファスシリコン、可視~近赤外域の光は微結晶シリコン)@カネカ  :光の吸収範囲を広げ変換効率が高い                                                               
化合物系 : 薄膜で非常に軽い、部分的な影の影響が結晶系に比べ少ない
 長所短所
多元系結晶系より電圧が高い、高温時の出力低下が少ない、アニール効果で導入時よりも出力が向上、大面積の製造が容易かつ低コスト、光吸収層は化学的に安定かつ強アルカリ・酸性雨にも溶解しない変換効率は単結晶より劣る、バッファ層にカドミウムを使用するタイプは環境問題が課題、薄膜のため光閉じ込めが課題
Ⅲ-Ⅴ族   使用する元素により広い波長範囲で光を吸収することができるため変換効率が非常に高い、宇宙線などの放射線損傷に対し高い耐久性を持つInや他の元素を積層(直列接続)するため各層で発生する電流をそろえることが課題
Ⅱ-Ⅵ族光吸収が高く理論的にもっとも高い変換効率が期待されている変換効率は単結晶より劣る、カドミウムを使用しているため環境問題が課題(日本ではほとんど使用されておらず欧米が中心)
有機系 : 有機物を原材料とした太陽電池、薄膜で非常に軽い、着色も可能、室内照明でも変換効率が良好(結晶系は変換効率低下)、部分的な影の影響が結晶系に比べ少ない
 長所短所
色素増感非常に軽い、着色も可能、、製造温度500℃程度のため低コスト(単結晶は約1400℃)結晶系に比べ変換効率が劣る、電解液を使用しているため腐食・液漏れなどによる劣化が課題、色素のルテニウム錯体などの資源問題が課題
有機半導体 フレキシブル且つ透明タイプも製作可能で用途が広い、電解液を使用していない、塗布だけで製作でき低コスト結晶系に比べ変換効率が劣る
ペロブスカイト開発されて10年程度で結晶系シリコンと同等の変換効率を達成、結晶系より電圧が高い、フレキシブル且つ透明タイプも製作可能で用途が広い、電解液を使用せずに光増感層を形成できる、鉛を使用しているため環境問題が課題、大面積化・量産に課題、ホール(正孔)輸送層の材料が高価、耐久性・再現性は開発から日が浅く、研究評価途中

◉まとめ

以下に太陽光発電システムの導入に関するポイントをまとめます。

  • SDGsの目標達成、脱炭素に取り組むことが必須
  • 2030年に向け再生可能エネルギーの位置づけは非常に大きい
  • サプライチェーン・ステークホルダー全体、自社長期ビジョンの取組が必要
  • 自社ブランド価値向上、エネルギー消費コスト低減、BCP対策、地域貢献を手厚い国・地方自治体などの支援策を活用して取り組むことが必要
  • 各太陽電池には長所・短所および運用ににもいろいろ法規制があるため、使用目的や使用環境などを十分検討し最適なものを選択

上記に関連して、太陽電池は発電した電気を貯蔵できない、或いは天候により発電量が逐次変動するため、蓄電池との併用でより大きなメリットが得られます。蓄電池導入に対しても国や地方自治体から支援策がいろいろ設けられており、ぜひ活用して脱炭素社会に向けて取り組んで頂ければ幸いです。